第15回 ニュースピーク
【15-1】ナチスを極めた世界では言語もコントロールされる?ジョージ・オーウェルの名作「1984年」で使われる言語ニュースピーク【ニュースピーク】
1984年のざっくり解説(※ ネタバレ注意!)
ジョージオーウェルが1949年に書いたディストピア系SF小説
1984年の肥大化した全体主義国家を描いている
ビッグブラザーという指導者を中心として、党員は常に情報を操り、民衆を自由にコントロールしている
特徴
地理
3国で戦争をし続けている社会、その中のオセアニアにいる男性が主人公
オセアニア、ユーラシア、イースタシア
政府
党のイデオロギーは、「イングソック(IngSoc、English Socialism、イングランド社会主義)」と呼ばれる一種の社会主義である
戦争は平和なり(WAR IS PEACE)
自由は屈従なり(FREEDOM IS SLAVERY)
無知は力なり(IGNORANCE IS STRENGTH)
暮らし
党中枢
党の中枢にいて、能力主義で決まる。自分を捨てて忠誠を誓えるかどうか。ダブルシンクがだいじ
党外郭
党員として省庁で働く。最低限の暮らしはできる。
テレスクリーンに常に監視されていて、変な行動をすれば思考警察がすぐにきて捕まる
プロール
識字率も低く、テレスクリーンにも監視されてない、ほぼ無法地帯
ダブルシンク、二重思考
あることを忘れるべき時には忘れ、思い出すべき時には取ってきて使ってまた忘れる
全く矛盾する意味のものをどちらも信じる
党は民主主義を否定しながらも擁護している、など。
ストーリー
オセアニアの党外郭の男性が主人公
テレスクリーンに監視されながらも、この世界に違和感を持っていた。事実が捻じ曲げられ続けていることを知っていた(これがバレた時点で思考警察に捕まる)
実際に、家の隅のバレないところで、メモで真実を書いたりしていた
党中枢の偉くて超優秀な人で、昔から仲間かもしれない人とあい仲間だと分かり、組織に入る
しかし、実際には偽りで捕まり、拷問によって思考を矯正される、2+2=5を本気で信じるまで終わらない
完全に脳がバグり、信じられるようになり、幸せに死にましたとさ、おしまい。
編集ポイント
二重思考の例は、会社のやつだけでいいかも
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【15-2】言語によって思考の自由を奪う。英語の不規則系や品詞を排除した言語【ニュースピーク】
ニュースピークの目的
イングソックの信奉者に特有の世界観や習慣を表現するための媒体を提供すること それ以上に、イングソック以外の思考様式を不可能にすること
ニュースピークでは、インスグソックの考えに則さない言葉は存在しないため、思考が言葉に依存している限りは、異端の思考をすることは不可能となる、難しい
また、一つ一つの単語の多義性を排除し、明確な一つの意味だけを持つようにすることで、間接的な方法で異端的な思考をしたり表現をすることも不可能にした
例えば、「自由」という言葉は、免れている(この犬はシラミから自由である)という意味しか無くなった、そのため政治的な自由などは表現できないものとなった。
そもそも、そういうったものは概念として存在しないから不要なのである。
語彙の削減による思考の縮小
語彙の削減それ自体が目的とされた
それは、自由に思考できる範囲を縮小するためである
そのため、絶対的に必要不可欠とは言えない言葉以外は、無くなった
文法規則
単語数削減のために
名詞兼動詞になった
言葉を減らす目的もあり、think, thought は分ける必要がないので、think だけで名刺も動詞も表せるようにした
cut はなくなり、knife で切るを表現できるようになった
形容詞や副詞も、それに、~ful, -wise をつけるだけになった
rapid, quickly -> speedful, speedwise になった
well -> goodwise
否定や強調表現のための単語も無くなった
un-, や、 plus-, doubleplus- に置き換わった
bad -> ungood
暖かい、超暖かい、めちゃくちゃ暖かい -> uncold, plusuncold, doubleplusuncold
不規則系はなくなり、語尾を統一
過去系は全て、-ed になった
thought -> thinked
more, most もなくなり、-er, -est で統一
発音が難しい語は、それ自体で悪い語であるとみなされ、文字が一つ挿入されたりちょっと不規則になる、ということはあった
しかし、これは主にB語彙群においてであり、その説明はB語彙群で説明する
A語彙群
日常生活で必要な言葉
多義性やニュアンス的なものは一掃されているので、これを用いて政治的、哲学的な会話をすることは不可能だった
【15-3】略語は無意識に思考の幅を狭めている?思考を切り離して話せるようにする政治目的の語彙群【ニュースピーク】
B語彙群
概要
政治目的のために意識的に作られた語
どう使っても政治的な意味を内包しており、使用者に望ましい心構えを押し付ける
イングソックの諸原理を十分に理解してないと、正しく使えなかった
全て2つ以上の語を組み合わせた複合語
例えば、goodthink (良思考)は、ざっくり「正統、正統的に思考する」を意味する
もちろん、goodthinked, goodthinking, goodthinkwise などもある
複合語を構成する語は、どんな品詞でもよく、順序も自由で、派生元がわかりさえすれば発音が容易になるように途中で切ったやつを使ってもよかった
例えば、crimethink(犯罪思考)もあれば、thinkpol (思考警)もある
イングソックの思想に反するような概念の語は、それらの意味を包括するような語によって破壊された
honour (名誉), justice (正義), morality (道徳), internationalism (国際協調主義), democracy (民主主義), science (学問), religion (宗教) などは、それらを包括するような少数の語によって置き換えられ、消された
例えば
客観性や合理性は、旧思考に集約された
それ以上詳細な意味を考えることはニュースピークを通してはできなくなる(解像度をめちゃくちゃ荒くする)
性生活においても、sexcrim (性犯罪), goodsex (良いセックス) の2つの語しか存在しなくなった
これ以上性的な話をすることはできない
ニュースピークを使う限り、異端の思想に関して、それが異端であるということは認識できたとしても、それ以上進んで思考することは、言葉がない以上できないようになっていた
語の縮約を意図的に行った
例えば、Records Department (記録省) は、RecDep のようなノリ
20世紀の初めの2,30年間においても、政治言語における縮約は行われていた
しかし、ニュースピークではそれが目的意識を持って行われた
その目的の一つ目は、
元の名称から連想される意味を削ぎ落とすことで、その意味を限定し、また巧妙に書き換えること。実際にそれができる
例えば、コミンテルンは、何も考えずに口にすることができるが、共産主義インターナショナルは、口に出す前に一瞬でも考える時間が生まれる これって現代の語でもめちゃくちゃたくさんあるよね。省略語の意味が徐々に描き変わっていくみたいな現象
2つめは、
話何も思考をさせないこと、意識を切り離して話させること
政治的に、話す際に、早口で発音できて、話し手の心に最小限の余韻しか残さず、しかも間違えようのないような意味を持つことが重要であった
そのために、縮約語が必要だった
詳細
とにかく発音の響きを重視しており、そのためならB語彙群に関しては文法を逸脱してもよかった
B語彙群のほぼ全ては2,3音節であり、アクセントが最初か最後に等しく配分されていた
そうすると、話す際には途切れ途切れになりつつも単調になり、ガチョウの表な話し方になる
党員は、これができるように強調をされた、なのでバカでも扱えるように簡単な単語ばかりにしてある
ニュースピークでは語彙が年々増えるのではなく、減っていた
削減するたびに、選択範囲が狭まるので、そうすると何かを塾講しようとする誘惑が減るからである
削減は利益になっていた
究極的な話し方の理想
明瞭な声に伴われた話が高次頭脳中枢を活動させることなく、喉頭から垂れ流されること
わかりやすいのは、duckspeak(アヒル話、アヒルのようにガーガー喋ること)で
それは、多義的な意味を持っており、話の内容が正統的な内容であれば、それは賞賛の意味しか持たなくなる
新聞が講演者について、doubleplusgood duckspeaker(倍超良アヒル話し手)と蹴ようしたときは、対象への熱い賛辞となった
C語彙群
科学的、技術的な語が属していた
これは今日使われているものとかなり近い
しかし、ここでも、政治的な意味を持たないようにするための調整が行われた
【15-4】自由や平等という言葉がなければ、我々はどんな思考をするのか?アメリカ独立宣言が犯罪思考としか言葉に表せない世界【ニュースピーク】
ニュースピークの効果
ニュースピークがもたらす思考幅の縮小
これまでも述べてきたことだが、ニュースピークにはイングソックの思考に合わないことは表現することがほとんどできない状態になっている
実例を見ていこう
これは言える
しかし、それしか言えなかった。それ裏付けるために説明をしたり、議論をすることができなかった、言葉が存在しないために。
全ての人間は等しい(All mans are equal)
これも言える
しかし、これは、全ての人間は赤毛である(All men are redhaired)、ということとこ同じ意味だった
つまり、全ての人間の身長、体重、などなど、生物としての能力的なところが等しい、と言うことしか意味しなかった
そのため、平等や、政治的な等しさ、といった概念はそこにはない
ニュースピークが完全に効果を発揮するまでには一定の時間がかかる
1984年の段階では、オールドスピークがまだコミュニケーションには利用されていた
そのため、ニュースピークを使うときに、その元々の意味を思い出してしまう危険性を孕んでいた
二重思考を完全に体得していたら、そのような危険はないが
しかし、2,3世代も経てば、そのような可能性すらなくなる。世代交代を重ねるごとにオールドスピークを学ぶことはないので、忘れ去られていき、元々存在していた異端思考的な概念は完全に人々の思考から消える
そうすると、多くの罪は犯すことすら難しくなる、その名前も概念すらも知らないわけなので
ニュースピークのみを人々が利用するようになると、過去との絆も断たれる
どんなに検閲や文書の書き換えを行ったとしても、昔のオールドスピークで書かれた文書を完全に消し去ることはできない
しかし、それらにたまたま出会ったとしても、それを彼らが理解できるニュースピークに翻訳することは、正統的な思考の文書でない限りはもはや不可能だった。なぜなら言葉や概念が存在しないから。
我々は以下の真理を自明のものであると考える。すなわち、全ての人間は平等に創られたものであり、創造主によって一定の不過剰の権利を与えられており、、、
この1節を本来の意味を違えずに、ニュースピークに翻訳することは不可能であった
最も近いのは、「犯罪思考」の一言で表すことである
細かく書く文章を翻訳しようとすると、イデオロギーや政治的な意味が含まれてしまうため、それでも無理やりやるとすると、トーマス ジェファーソンのこの言葉は、絶対的な統治機構への賞賛になってしまう 過去の文書の書き換えには相当な時間を要する
上記のような歴史的文書の書き換え、翻訳は、ずっと行われている。
威信を重視すると、可能な限り、一定の歴史上の人物の業績を、イングソックの哲学と一致するようにすることが理想だった
もちろん全て破棄してしまうのが楽ではあるが、後世に渡ってイングソックの哲学の偉大さを強調するためには、この方がよかった
もちろん終わったら全て破棄される
これに加えて、国家運営や技術において、必要不可欠な文書もたくさんあり、それの翻訳作業も行わなければならなかったため、21世紀最初の10,20年で終わるものではな買った
そのため、ニュースピークの最終的な採用時期が、2050年という遅い時期に設定された